心理的安全性とは?“号令”では高まらない理由と高め方・つくり方

心理的安全性とは、評価や立場を気にせず、気づいたことや反対意見を率直に口にできるチームの状態のことです。Googleの調査で注目されて以来、多くの企業が「高めよう」と取り組んでいますが、掛け声だけではなかなか変わりません。その理由と高め方を、研修現場の実感からまとめました。
「発言しない人」を責めても、職場は変わらない
会議の最後に「何か意見はありますか」と聞く。誰も手を挙げない。少し待って、そのまま閉会する——。心理的安全性のご相談で人事の方から伺う悩みは、たいていこの場面から始まります。
1on1を増やした。会議の進め方も変えた。「何でも言っていい」と繰り返し伝えてもいる。それでも会議は静かなままで、気づけば「うちの社員は主体性がない」という話に落ち着いてしまう。
私たちは20年間、のべ2万人以上の研修に関わってきましたが、その中で確信していることがあります。場を用意しただけでは、人は話しません。そしてそれは、社員の主体性の問題ではないということです。
心理的安全性とは何か?「ぬるい職場」ではない
先に、よくある誤解から片づけておきます。
心理的安全性は、みんなが仲良くして、耳の痛いことを言わずに済む職場のことではありません。むしろ逆です。評価や立場を気にせずに、違和感や反対意見、失敗の報告といった「言いにくいこと」を口にできる。それが本来の意味です。
ポイントは、率直さと高い基準が両立していることです。「これはおかしくないか」「もっとこうした方がいい」と遠慮なく言い合えるから、チームは間違いに早く気づき、判断の質が上がる。仲の良さが目的ではなく、成果のための率直さ。ここを取り違えると、施策が「懇親」の方向にずれていきます。
人は、理由もなく黙っているのではない
では、「話していい」と言われても話さないのはなぜでしょうか。
研修で受講者の本音を聞いていくと、答えは意外なほどはっきりしています。黙っている人は、空気が読めないのではなく、正しく読んでいるのです。
こんなことを聞いたら、勉強不足だと思われないか。失敗を報告したら、評価に響くんじゃないか。今この提案をしたら、進んでいる話の腰を折ることにならないか。
そう考えれば、黙っているのはむしろ合理的な判断です。私たちはこれを「沈黙の合理性」と呼んでいます。
沈黙の奥にある「無意識の防衛反応」
もう一段深く見ると、この不安の根っこには無意識の防衛心があります。人は、頑張っている自分を理解してくれない人や、まず否定から入る人を前にすると、無意識に心の壁をつくります。私たちは、その表れ方を3つのパターンで整理しています。

会議の沈黙は、このうち「逃避や迎合」がチームに広がった状態です。ただ、発言が多ければ安全というわけでもありません。マウンティングやかたくなな反論が飛び交う会議では、口数とは裏腹に、本音はどんどん引っ込んでいきます。3つのパターンは形こそ違いますが、根っこは同じ。「自分を守りたい」という、誰にでもある自然な心の動きです。
この防衛心を放置したまま「もっと発言を」と号令をかけても、人は動きません。発言しないことを責められた人は、ますます口を閉ざします。心理的安全性を高めるというのは、突き詰めれば、この「黙っていた方が得だ」という計算を少しずつ書き換えていく仕事です。
心理的安全性の高め方 「言ってくれてありがとう」の積み重ね
書き換える方法は、拍子抜けするほど地味です。
誰かが的外れかもしれない質問をしたとき、失敗を打ち明けたとき、反対意見を口にしたとき。そこで責めずに「言ってくれてありがとう」と返す。これを一度、また一度と繰り返す。それだけです。
制度や仕組みで一気に変えられればいいのですが、「ここでは話しても損をしない」という感覚は、実際に話して損をしなかった経験からしか育ちません。逆に、勇気を出した発言が一度でも軽く扱われると、その人が次に口を開くまでには長い時間がかかります。
だから、最初の一歩はリーダーの側にあります。自分の失敗や迷いを先に話す。答えを言う代わりに問いを出す。異論が出たら、内容の是非より先に、出たこと自体を歓迎する。リーダーのこうした振る舞いが、「このチームは話していい場所だ」という何よりのメッセージになります。
フラットモデル 壁は「相手」ではなく「自分」から下げる
私たちはこの道筋を「フラットモデル」と呼び、3つのステップで整理しています。

- 自分の防衛心を和らげる … 先ほどの3パターンのような防衛反応に、まず自分自身が気づく。壁をつくっているのは相手だけではない、というところから始めます。
- 相手の自尊心を高める … 相手の強みや価値観に関心を向け、違いを理解する。自尊心が満たされた相手は、自然と自己開示が進みます。
- お互いに歩み寄る … ①②を土台に、日々の傾聴やフィードバックで率直なやりとりを習慣にしていきます。
「言ってくれてありがとう」は、ステップ②のいちばん小さな実践です。特別なスキルではなく、順番の問題です。相手に発言を求める前に、まず自分の壁を下げる。この順番を逆にすると、どれだけ場を整えても空回りします。
心理的安全性のつくり方は、チームのフェーズで変わる
もうひとつ、現場で痛感していることがあります。同じ「心理的安全性を高めたい」でも、チームの段階によって効く打ち手がまったく違うということです。
できたばかりで、お互いをよく知らないチームなら、まず必要なのは相互理解です。どんな経験をしてきて、何を大事にしていて、何が苦手なのか。それを知らない相手に、本音は話せません。
関係がある程度できているチームなら、次は共通認識です。自分たちは何を大事にするのか、どういう行動を良しとするのか。基準が言葉になっていないと、率直さは人によってバラバラの方向に出てしまいます。
そして変革期のチームに必要なのは、未来を一緒に描くことです。目的やビジョンを共有できてはじめて、率直な意見が「批判」ではなく「貢献」として受け取られるようになります。
一律の研修が空回りするのは、この違いを無視して同じ処方箋を配るからです。自分のチームが今どの段階にいるのかを見立てることが、遠回りに見えて一番の近道です。なお、このフェーズに合わせた設計は、カルチャークラフティング研修(チームビルディング)の土台になっている考え方でもあります。
研修は「概念を教える」だけでは足りない
ここまで読んでいただくと、心理的安全性の研修に何が必要かも見えてくると思います。
エドモンドソン教授の理論やGoogleの調査を学ぶことは、出発点として有効です。「なぜ重要か」をチームの共通言語にする意味は大きい。ただ、概念を知った翌日から職場が変わるかというと、そうはなりません。
沈黙には合理性があるという前提に立つこと。影響力の大きいリーダーの言動から変えること。チームのフェーズを見立てたうえで、日々の会議や1on1、フィードバックの場で、率直さを行動として定着させていくこと。そして一度きりで終わらせず、実践と振り返りを続けること。
私たちの心理的安全性研修は、フラットモデルを軸に、この考え方で設計しています。
心理的安全性とレジリエンスは、切り離せない
最後に、心理的安全性とセットで見てほしいものがあります。一人ひとりのレジリエンス、つまり困難から立ち直る力です。
弱音や失敗を安心して話せる土台があるほど、人は問題を一人で抱え込まずに済み、立ち直りも早くなります。反対に、立ち直れる人が多いチームは、失敗を過度に恐れずに挑戦できます。安心して話せる関係と、しなやかに回復する力。この2つは組織を強くする両輪で、どちらか片方だけではうまく回りません。(関連:レジリエンス研修)
「働く時間」を、率直に話せる時間に変えていく
心理的安全性は、制度として「導入」するものではないと私たちは考えています。
思ったことを言っても損をしなかった。困ったときに助けを求めたら、ちゃんと応えてもらえた。そういう小さな経験が積み重なった結果として、気づけばチームに根づいているものです。
発言しない人を責めるのではなく、話しても損をしない関係を、日々の対話の中で育てていく。掛け声で終わらせない心理的安全性とは、そういうものだと考えています。
心理的安全性は、「体感」してはじめて動き出す
とはいえ、ここに書いたことを社内で共有するだけでは、職場はなかなか変わりません。「話しても大丈夫だった」という一次体験が、どこかで必要になります。
ザ・アカデミージャパンの心理的安全性研修は、大手企業を中心に数多くの実施実績があります。講義で概念を学ぶだけでなく、自分の防衛反応に気づくワークや、本音で語り合う対話セッションを通じて、「率直に話せる場では、これほど仕事が進むのか」を受講者自身に体感してもらう設計です。
安心して話せる、挑戦できるチームをつくりたい。そう思われたら、カリキュラムや導入事例をぜひご覧ください。
著者
AJ編集部
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