若手向けレジリエンス研修で考えたい、仕事への迷いと立ち直るきっかけ

若手に、もう少したくましくなってほしい。
育成に関わる立場なら、そう願うこともあるでしょう。失敗しても、次の仕事に取り組んでほしい。思いどおりにならないときにも、自分でできることを探してほしい。その願いには、本人の成長を応援する気持ちがあるはずです。
では、その若手は今、何につまずいているのでしょうか。
仕事の進め方が分からないのか。期待に応えられなかったことが悔しいのか。今の仕事を続けて、どこに向かうのかが見えないのか。外からは同じく元気をなくして見えても、必要な関わりは違ってきます。
若手向けのレジリエンス研修を企画するとき、私たちはこの中身を丁寧に見たいと考えています。困った場面を振り返り、自分の受け止め方を確かめ、人の助けも借りながら次の行動を考える。そのために、感情への対処や自己理解を学び、参加者同士で経験を話す時間を組み合わせます。
今回は、入社1〜3年目を対象に、レジリエンスとキャリア形成を結びつけたAJ(ザ・アカデミージャパン)の導入事例から考えてみます。
入社1年目の不安と、3年目の迷い(導入事例から)
この企業では、入社1〜3年目の約48名を対象に研修を実施しました。入社1年目には、自分で何かをやりたいという意欲がある一方、変化や予想外の出来事への対応に課題がありました。2〜3年目には、業務経験を積む中で、理想と現実のギャップやキャリアへの迷いが見られました。上司側のキャリア支援にも課題があり、本人の自己理解と周囲との関係の両方を扱う研修を設計しています。導入事例:キャリアの不確実性を「前向きに活かす力」へ
経験を積めば、迷いは減る。育成する側は、そう期待しがちです。しかし、仕事を知ったからこそ出てくる疑問もあるのではないでしょうか。
入社前には、職種名や事業の説明から仕事を想像します。働き始めると、一日の多くを占める作業や、判断を求められる場面、人との調整が見えてきます。そこに面白さを見つける人もいれば、期待していたこととの距離を感じる人もいるでしょう。
その距離を感じているときに、まず将来の目標を決めようとすると、答えに詰まることがあります。今の仕事への気持ちが整理できていないのに、先の目標だけを求められるからです。
研修では、現在地を確かめる時間にも意味があります。何が思っていたことと違ったのか。仕事の中で、少しでも手応えがあったのはどこか。自分は何を大切にしたかったのか。そこからであれば、話し始められることもあるはずです。
なお、この事例の年次別の傾向を、若手全体の特徴と考えることはできません。同じ2年目でも、配属先や任されている仕事は異なります。年次に合わせてプログラムを選ぶ前に、参加者が今どんな経験をしているかを確かめる必要があります。
レジリエンスは本人の内面だけでは決まらない
レジリエンスについて、米国心理学会(APA)は、困難な経験にうまく適応していく過程と、その結果として説明しています。そこには物事の捉え方や対処の仕方とともに、周囲から得られる支援があるか、その質はどうかも関係するとされています。本人の内面だけに閉じた話ではありません。APAによるレジリエンスの説明
AJの今回の事例でも、過去の経験を振り返る「逆境グラフ」や、強み・価値観・自分を支える人を整理するワークを取り入れました。
こうした振り返りで見ておきたいのは、苦しかった出来事の大きさだけではありません。その後、何があったのかです。
たとえば、初めての仕事で行き詰まった経験を考えてみます。以下は、振り返り方を説明するための仮の例です。
本人は、何とか自分で調べて終わらせた、と覚えているかもしれません。そこで「調べる方向は、どうやって決めたのですか」と聞いてみる。先輩に教えてもらった資料があったのかもしれない。途中で同僚に確認してもらっていたかもしれない。仕事の締め切りを調整してもらった可能性もあります。
自分で工夫したことを確かめながら、周囲がしてくれたことにも目を向ける。すると、次に困ったときに頼れそうな人や、お願いできそうなことを考える材料が増えます。
反対に、振り返っても助けを得られた経験が出てこないなら、そのこと自体を受け止める必要があります。誰に相談すればよいのか分からなかったのか。相談する余裕がなかったのか。話を聞く側が、支援はあったはずだと決めてしまうと、大事なところを聞き逃します。
対話で、まだ言葉になっていないことが出てくる
研修で経験を共有する意味は、同じような苦労をした人を見つけることだけではありません。
他の参加者が気になった点を尋ねてくると、自分一人では振り返らなかった部分に話が及びます。自分では大したことがないと思っていた工夫について、詳しく聞かれる。説明しようとするうちに、その行動を選んだ理由が見えてくる。AJが対話で大切にしたいのは、このように考えが少しずつ具体的になる過程です。
そのため、講師は参加者の話を聞いて、すぐに教訓へまとめる必要はありません。
うまく対処できた経験なら、どんな条件があったからできたのかまで聞く。まだ解決していない話なら、途中のままでも扱えるようにする。別の人から助言が出たときは、それが本人の状況に合いそうかを確かめる。ファシリテーションには、発言を促すことに加えて、話を早く終わらせすぎない配慮も必要だと考えています。
聞き手にも、考えることがあります。自分なら同じ場面で何を気にしただろうか。相手が使った方法は、自分の職場でも試せるだろうか。難しそうなら、どこが違うのか。
一人の経験をきっかけに、話す側と聞く側がそれぞれ自分の仕事を考える。そのやり取りの中から生まれた疑問や意見に、講師の説明だけでは用意できない学びがあります。
もちろん、つらい経験を詳しく話すよう求める場にはしたくありません。共有する内容は本人が選び、仕事上の小さな迷いや困りごとも扱えるようにする。他の人の話を聞きながら考える時間も尊重する。対話を重視するからこそ、話す量を成果のように扱わないことが大切です。
研修で話したあと、職場で何を試すのか
経験を話して気持ちが整理できても、翌日の仕事は待っています。研修には、気づきを具体的な対処へつなげる時間も必要です。
今回の事例では、感情を言葉にすることや、出来事への受け止め方を考える手法に加え、周囲に自分の考えを伝えるアサーティブコミュニケーションも扱いました。研修後には、メルマガによるフォローを行っています。
対話から得た気づきを行動へ移すとき、何をするかが曖昧なままでは、本人も試しにくくなります。
「早めに相談する」と決めたとして、本人にとっての早めはいつなのか。全部調べ終わってからか、一時間手が止まった時点か。相談するときは、何が分からないかを説明できそうか。相談先に確認しておくことはあるか。
こうした細部まで考えると、職場で試す行動の輪郭が見えてきます。「次の依頼では、着手前に目的と優先順位を聞く」「行き詰まったら、途中の状態を先輩に見てもらう」。これは一例ですが、研修で目指したいのは、立派な決意表明より、本人が実際に試せる行動です。
同時に、相談を受ける側にも準備が要ります。上司が想定しているタイミングと、若手の理解が違っていれば、そこをすり合わせる。優先順位が分からないなら、一緒に整理する。本人が研修で学んできたことを、職場で使える形にする関わりです。
研修後アンケートの先で、確かめたいこと
この事例の研修後アンケートでは、自分の強みや支えてくれる人への気づきが報告されています。また、面談や第三者との対話、振り返りの機会を求める声もありました。
このアンケートから分かるのは、研修直後の受け止めです。その後どれほど行動が変わったか、仕事の成果にどんな影響があったかまでは確認していません。
ただ、継続した対話を求める声は、その後の支援を考える手がかりになります。研修で考えたことを、職場に戻ってから誰と話せるか。試した行動がうまくいかなかったとき、もう一度相談できるか。企画担当者としては、実施後のこうした機会まで見渡しておきたいところです。
次の面談では、気持ちが前向きになったかを聞くだけでなく、何か試したことはあったか、そこで何に困ったかを聞く。行動できなかった場合にも、その理由を一緒に考える。本人の意欲だけでは説明できない、業務量や役割の問題が見つかることもあるでしょう。その場合は、職場側で引き取って検討する必要があります。
若手にたくましくなってほしいという願いを、研修に託す。そのとき、周囲も一つ問いを持っていたいと思います。
この人が次に困ったとき、私たちはどんな関わりができるだろうか。
本人が自分の経験を捉え直す時間と、周囲がその人への関わりを考える時間。若手向けのレジリエンス研修を、その両方につながる機会にしていきたいと考えています。
AJのレジリエンス研修では、対象者の経験や職場の課題に合わせてプログラムを組み立てます。若手向けには、今回の事例のように、キャリア形成や上司の関わりと結びつけた設計も行っています。
著者
AJ編集部
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