今注目の心理的安全性とは
職場における心理的安全性とは、他者の反応に怯えたり羞恥心を感じることなく、ナチュラルな自分でいること(自然体の自分をさらけ出すこと)のできる雰囲気のこと。つまり、チームメンバーみんなが、思ったことを自由に発言したり、行動に移したりすることで対人関係を損なうことはないと思っているフラットでオープンな状態のことです。
もともと心理的安全性は、1999年にハーバードビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン(Amy C. Edmondson)教授により提唱され、近年、米Googleの人事データの分析チームが、チームの生産性に影響を及ぼす大きなひとつの要因がチームメンバーの感じる「心理的安全性」であったことを発表したことにより大きな注目を集めました。
日本人の特徴として、与えられた仕事に対する強い責任感と他者を気遣う心を持っています。 この誠実で思いやりのある国民性は様々な場面でプラスの効果として発揮しますが、他者評価を気にするあまりフラットでオープンに自己開示することが苦手で心理的安全性が高まりにくいといったマイナス面も持ち合わせています。
エドモンドソン教授・スピーチフォーラム『TED』映像
先述したハーバードビジネススクールのエドモンドソン教授は、スピーチフォーラム『TED』において、心理的安全性不足によるチーム内の心理的脅威が引き起こす4つの不安と行動特徴も紹介しています。
- ●IGNORANT(無知だと思われる不安)
- ●INCOMPETENT(無能だと思われる不安)
- ●INTRUSIVE(邪魔をしていると思われる不安)
- ●NEGATIVE(ネガティブだと思われる不安)
これらの不安を払拭するため、心理的安全性が確保されていない職場では多くの従業員たちが自己呈示行動(self-presentation)や自己印象操作(self-impression management)を行い、自分を偽りながら働いているとエドモンドソン教授は語っています。
VUCA時代、なぜ心理的安全性が必要なのか
心理的安全性はチーム運営上必要か?
出典:2017年11月号リクルートワークス『組織・チームのリーダーへの調査より』
現代のカオス化した経営環境や個人キャリアを取り巻く状況を表現する言葉として使われているのが、VUCA(ブーカ)です。
Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉になります。
2000年代以降、世界経済は急速にグローバル化が進み、市場は急激な変化を遂げています。また、IT技術の進歩に伴い、あらゆる市場で既存ビジネスモデルの崩壊・再構築が始まり、ビジネス界の新陳代謝はどんどん激しくなる一方ですし、ビジネスモデル一つとっても、これまでの10年間を今後の10年間と比較すると、その変化の速さは比べものにもなりません。
そんな中、組織や個人は、急激な変化へしなやかに対応するアジリティ(俊敏性)、つまりイノベーションの加速が求められており、近年イノベーションを生み出す組織変革に向かって、国内の大手・有名企業を中心に様々な施策を講じています。

例えば、右図の変革の4象限モデルをベースに説明すると、第4象限(集団/外的)においては、中期経営計画の中核にイノベーション促進を掲げたり、イノベーションを奨励するために失敗をした社員への表彰制度や新規事業提案制度を取り入れたり、また、第2象限(個人/外的)においては、イノベーションを起こすためのフレームを社員が学ぶラテラルシンキングやデザイン思考研修などを行っています。
しかし、その効果は限定的(一部の人たちで、一時盛り上がる)で、組織全体で持続的にイノベーションを生み出すところまでなかなかたどり着けず、多くの企業が苦労しているのが現状です。
そこで、イノベーションを組織全体で持続的に生み出す風土づくりの土台として注目されているのが「心理的安全性」です。この心理的安全性は、第3象限(集団/内面)の部分にあたる施策になります。
なぜイノベーションを生み出す組織づくりの根本的な施策が心理的安全性なのか?

イノベーションの本質とは、組織でビジョンを掲げたり、個々が思考法を学ぶことではなく、お客さまを主語に自分と相手が「共感する場」にあるからです。
「私はあなたの考えと気持ちはよく分かる」と相手の世界観(頭の中)へ入り込みながら、いかに「私だったらこうやるよな」という自らの主観と統合し、お客さまを主語に自分の思いと相手の思いとを戦わせながら、つまり「こうじゃないか」というコンセプトにまで持っていくプロセスこそがイノベーションの本質であり、その共感し合える場、すなわち、言いたいことを言い合える場をつくるために心理的安全性は必要不可欠なのです。
しかしながら、古き良き日本の文化や高度経済成長期、今ではもう幻の終身雇用制度・年功序列制度と行き過ぎた成果主義の名残りから、日本企業の特徴として、特に経営層や上司、年の離れた先輩、異性に対して、言いたいことを言えない「ジャパニーズ忖度」風土、既存のビジネスの効率化を追及して成果を出し続けるという過去の成功体験に強く囚われすぎてしまい「気軽に失敗や挑戦できない」風土、成果を出していない自分が何かを提案しても聞いてくれないし、否定されるだけといってあきらめてしまう「無関心」風土などなどが組織の中でも蔓延しており、これまで培ってきた国民性と日本企業の風土から考えてみても、心理的安全性は意識して高めていく必要があります。
心理的安全性をつくるSAFEモデル
心理的安全性の高いチームの特徴
心理的安全性を高めるアプローチ
チームの心理的安全性を高めるにはどうすればよいか?
前述のエドモンドソン教授の1999年の論文に7つの質問項目による尺度が掲載されていますのでご紹介したいと思います。
- ①If you make a mistake on this team, it is often held against you.
- ⇒ もしあなたがこのチームでミスをしたら、批難されることが多い。
- ②Members of this team are able to bring up problems and tough issues.
- ⇒ このチームのメンバー達は、困難な課題も提起することができる。
- ③People on this team sometimes reject others for being different.
- ⇒ このチームの人たちは、異質なモノを排除する時がある。
- ④It is safe to take a risk on this team.
- ⇒ このチームなら、安心してリスクを取ることができる。
- ⑤It is difficult to ask other members of this team for help.
- ⇒ このチームのメンバーに対して、助けは求めにくい。
- ⑥No one on this team would deliberately act in a way that undermines my efforts.
- ⇒ このチームには私の成果をわざと無下にするような仕事する人は誰もいない。
- ⑦Working with members of this team, my unique skills and talents are valued and utilized.
- ⇒ このチームのメンバーと仕事をする中で、私個人のスキルと才能は、尊重され役に立っている。
以上7つの質問からも分かるように、チームの心理的安全性を高めるには、リーダー(管理職)の影響力は非常に大きく、あるデータによれば、リーダーの存在はチーム風土に約50~70%の影響を与えると言われています。そんな中、心理的安全性を高める工夫として、毎週自由に意見を言い合える場を設けている、適宜こちらから話しかけて話やすい雰囲気をつくっている、食事を一緒にしたり休憩もなるべく一緒にとったりしてコミュニケーションを図るようにしている、メンバー間のコミュニケーションをとる機会を増やしている、部下からの発言を先に聞き発言を遮らないようにしているなどを実践しているリーダーもいます。
もちろん、チームへの働きかけとしてリーダーがこのような工夫を実践することも大切ですが、そもそもリーダー自身が他者の反応に怯えたり羞恥心を感じることなく、自然体の自分をさらけ出し、常にオープンでフラットな姿勢であることがチームの心理的安全性を高めていくうえでとても重要です。
事実、表面上の言動ではそうは見せないようにしているが、腹の中では、自分の肩書や実績、プライドや弱み(羞恥心や劣等感)などを守る自己防衛心(以下、「エッジ」と呼びます)が強くなりすぎているリーダーが、小手先の工夫をどれだけ実践しても、”上司が部下を理解するには3年、部下が上司を見極めるのは3日”という言葉もあるように、ただ空回りするだけで、チームの心理的安全性は高まりません。
一番影響力を持っているリーダーが最初に、誰にでもある自らのエッジを受け入れ、弱みも含め自然体の自分をさらけ出すことがチームの心理的安全性を高めるKEYとなります。
実施スタイル
集合型 | オンライン | 講演会 | 公開コース | |
人 数 | 1クラス30名様以下 | 1クラス30名様以下 | 1会場50名様以上 | 各1名様~ |
実施時間 | 3時間~1日 | 3時間~1日 | ~3時間/回 | 3時間~1日 |
カスタマイズ | 〇 | 〇 | 〇 | ✖ |