近年、注目を集めるジョブ・クラフティングとは
ジョブ・クラフティングとは、主体的に仕事の捉え方や行動を再定義し創意工夫する概念で、退屈な作業や“やらされ感”のある業務をやりがいのあるものへ変容させる手法のことを言います。スキルや力に置き換えて表現すると、今の仕事を肯定的に意味づけする「意味づけ力」にあたります。
このジョブ・クラフティングの概念は、米イェール大学経営大学院で組織行動論を研究するエイミー・レズネスキー准教授とミシガン大学のジェーン・E・ダットン教授により2001年頃に提唱され、ビジネス環境の変化が激化したここ数年で特に注目されるようになりました。
ここで言う、日本企業におけるビジネス環境の変化は主に次の3つです。
- 組織から与えられた仕事では、確実な成果に繋がりづらく、仕事での達成感を味わいにくい。
- 長引く不況も影響し、与えられた仕事をこなすだけでは、キャリアアップを見込みづらくなった。
- 効率優先で個別化されていく仕事では、自分の仕事が社会や組織の中でどう役に立ち、誰にどう評価されているかが見出しにくくなった。
今後こうしたビジネス環境の変化はさらに大きくなっていくと予想されており、仕事の経験を自ら作り上げ、仕事のやりがいを見出す「ジョブ・クラフティング」の重要性はより増していくと言われています。
なぜ大手企業を中心に導入が進むのか

<従業員エンゲージメントを高めるために>
端的にいうと、エンゲージメントとは仕事や会社に対するワクワク感、幸福感、働きがいのことです。このエンゲージメントは、日本国内でも働き方改革で本来目指すべき姿”労働生産性と意欲の向上”に向かう指標として、また、優秀な 若手社員や経験豊富な中堅社員の離職防止の指標として活用されはじめ、世界中の企業で注目されているキーワードです。
エンゲージメントの概念を提唱した米国最大の調査会社ギャラップ社の「エンゲージメント・サーベイ」によれば、全世界1300万人のビジネスパーソンを調査した結果、エンゲージメントの高い企業(調査のトップ25%の企業)は低い企業(ボトム25%)に比べ、下記の違いがあることが分かっています。
・出社拒否が37%低い ・離職率が49%低い ・品質欠陥率が60%低い
・生産性が18%高い ・顧客満足度が12%高い ・利益が16%高い
しかし、日本企業は世界的に見てもエンゲージメントのスコアは著しく低く、エンゲージメント向上は喫緊の課題といえます。
- 日本企業はエンゲージメントの高い「熱意あふれる社員」の割合が6%
- 日本は調査した139カ国中132位 参考:米国は上記が32%
- 関連した調査で「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%
欧州ポジティブ心理学の第1人者イローナ・ボニウェル博士によるエンゲージメント向上のプロセスモデルによれば、従業員エンゲージメントを高める要素は、給与や福利厚生、信頼ある風土や上司の支援などの組織における資源と、仕事への認知や活力などの個人における資源の2つに大きく分けられます。
その中でも、組織における資源の「上司の支援」は、部下のエンゲージメントに最も大きな影響を与えるため、多くの企業で上司向けにコーチング研修やリーダーシップ研修を取り入れています。
その一方で、上司の力だけに頼るのではなく、個人における資源にもしっかりと目を向け、自分の創意工夫で退屈な作業ややらされ感のある業務をやりがいのあるものへ変容させる(自らの創意工夫でエンゲージメントを高めていく)ことが現場でより求められており、その変容させる考え方と手法を習得できるのがジョブ・クラフティングです。

<新たなキャリア開発の考え方を推進するために>
従来のキャリアは、自分の適性などを見出した上で、あらかじめ設定したキャリアゴールを目指してキャリアを積んでいくキャリアアンカー理論(アメリカの組織心理学者エドガー・H・シャイン博士提唱)が主流でしたが、今のように変化のスピードが非常に早く、将来何が起きるかが誰にも見通せない時代になると、キャリアをあらかじめ計画し、その計画通りに進もうとすることは現実的ではなくなりました。また、キャリアゴールをひとつに固定しても、それが5年後の自分や会社にとっても素晴らしいゴールであるとは限らず、他にもあったはずの機会を逃す(可能性を失う)ことになってしまうというデメリットの面が目立つようになりました。
そこで、今の時代に即したキャリア理論として主流になりつつあるのが、米国スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が20世紀末に提唱した「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」です。個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定されるとし、その予期せぬ偶然の出来事にベストを尽くして対応する経験の積み重ねで、よりよいキャリアが形成されるという考え方です。
計画された偶発性理論では、予期せぬ偶然の出来事の積み重ねによってキャリアが決定されると考えるので、偶然の出来事を積極的に引き寄せてステップアップの機会を創出しようとします。
その偶然の出来事(タスクや人間関係)を引き寄せ、意図的にステップアップの機会へと変えていくための考え方と手法を習得できるのがジョブ・クラフティングであり、今の時代に充実したキャリアを形成していくには不可欠な概念です。
ジョブクラフトするための土台となる考え方と3つの手法
上述の通り、ジョブ・クラフティングは、組織や上司が働きがいのある仕事を設計し、それをメンバーに割り振っていくジョブデザインとは異なり、働く個人が主体的かつ主観的に仕事に新たな意味を見出したり、仕事内容の範囲を変えたりすることです。よりシンプルに表現するならば、自分で仕事を意義深いものに変えていくことです。

<仕事を意義深いものに変えていく土台となる考え方>
ポジティブ心理学とは…
- ポジティブ心理学は、21世紀の心理学とも呼ばれ、1998年当時、米国心理学会会長であったペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・E・P・セリグマン博士によって発議、創設されました。従来の心理学の多くが精神疾患の治療などを研究対象にしているのに対し、「人生を真に充実したものにするのは何か?よりアップグレードするには?」という問いを研究対象にした学問です。(何でもポジティブに考えようという発想のことではありません)
ポジティブ心理学の分野で研究が進むPERMAとは…
PERMAとは、セリグマン博士が提唱する幸福度の5つの指標です。 欧米では、社員の幸福度(PERMA)を社内SNSのキーワード分析などから測定し、ポジティブな組織風土づくりに活用しています。日本では、金沢工業大学心理学研究所のwebサイトにある「PERMAプロファイラー」にて測定可能です。
研究が進む中で得られた重要な発見の一つが「成功するから幸せになるのではない。幸せだから成功するのだ」という因果関係。 つまり、幸福度=PERMAを高めることが、よりよい仕事、ジョブ・クラフティングの質を高めることにつながります。
- Positive Emotions:快適な感情
- 笑顔じゃないから不幸?そんなことない!あくまで主観的なもの
- Engagement:熱中・没入感
- 体験中は自覚がないフロー最高の強み・スキルで最高のチャレンジ!
- Positive Relationships:良い人間関係
- 個が非利己的な選択をすると集団の生き残る確率UP
- Meaning:人生の意義・目的
- 自分より大きなものへの貢献がMeaningful Lifeをもたらす
- Accomplishment:目標への達成感
- 達成だけでなく熟達、成就、などの意を含む
<仕事を意義深いものに変えていく3つの手法>
実際のジョブ・クラフティングでは、「人間関係」「仕事の捉え方」「仕事の内容や方法」の3つの観点から変化を起こしていきます。
技術① > 人間関係:社会的な交流の質や量を見直す
- 人間は他人と意味のある関係を結ぶことを欲する。顧客や上司、同僚などとの関わり方を積極的に変える、幅も広げることで、仕事の手応えをより強く実感でき、業務の進行もスムーズになる。
技術② > 仕事の捉え方:仕事の意義を広げる
- 仕事の意味に対する認知を修正する。担当業務の目的や貢献度を、高次の視点からより広く俯瞰的に捉え直すことで、たとえ喜びを感じにくい仕事にも、やりがいをもって打ち込めるようになる。
技術③ > 仕事の内容や方法:仕事のやり方や範囲を見直す
- 職場の慣習や前例にとらわれず、より楽しく取り組めるように仕事の内容をすすんでアレンジする。特に自分の強みや価値観を活かして、主体的かつ柔軟に自分の工夫やアイディアを実践することが、やりがいのきっかけになる。
実施スタイル
集合型 | オンライン | 講演会 | 公開コース | |
人 数 | 1クラス30名様以下 | 1クラス30名様以下 | 1会場50名様以上 | 各1名様~ |
実施時間 | 3時間~1日 | 3時間~1日 | ~3時間/回 | 3時間~1日 |
カスタマイズ | 〇 | 〇 | 〇 | ✖ |
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